2019年に改正された相続法。
その内容について、詳細をまとめました。
この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。
遺言に関する改正(2019年1月施行)
自筆証書遺言、法務局での保管制度の創設
法改正前までは、自筆証書遺言の保管は自らで行う必要がありました。
ただ、これでは災害があればおしまいですし、最初に発見した相続人が偽造したり、廃棄したりも可能なわけです。
この対応のために、自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことが可能になったわけです。
一部手書き以外の自筆証書遺言の解禁
法改正前までは、遺言は目録も含めて全文が自筆である必要がありました。
ただ、高齢者で長文の遺言を自筆するのは難しいですよね。
これが、相続財産の目録は自筆でなくても問題なしになりました。
遺言執行者の権限・責務、地位の明確化
今まで曖昧だった、遺言執行者の権限が明確化されたというだけです。
具体的な内容は、
- 遺贈の履行は遺言執行者のみが行う
- 特定財産承継遺言があったときは、対抗要件の具備を相続人に代って遺言執行者が行うことができる
- 遺言執行者あ、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる
- 銀行に対して預貯金の払戻しの請求や契約の解除をする権限を有する
です。
遺産分割に関する改正(2019年7月施工)
特別受益の持戻し免除の意思表示の推定
特別受益とは、共同相続人(相続人が複数いる)の誰かが、被相続人(亡くなった人)から、亡くなる前に遺産となるような物を貰った物のことです。
生前贈与とか遺贈っていう言い方をします。
これがある場合は、相続を前もって受け取ったと扱われるわけです。
そして実際に遺産分割を行う時に、前もって貰った物(特別受益)を含めた財産が、相続財産となるわけです。
これを、特別受益の持戻しと言います。
持戻しを行う場合の例
例の条件は、
- 被相続人に配偶者と子が2人
- 被相続人の遺産は、配偶者と同居していた持ち家3,000万円と預貯金で3,000万円
- この持ち家を妻に生前贈与していた
まずは、相続財産の合計として、預貯金の3,000万円がありますよね。
そこに、生前贈与していた持ち家3,000万円を一度、相続財産として戻します。そうすると、相続財産は6,000万円ということになります。
その後で、遺産分割をします。
配偶者は1/2の相続分があります。つまり。3,000万円ですね。しかし、既に生前贈与で3,000万円貰っているわけです。
これが相続分として扱われて、預貯金の相続分は0円となるわけです。
そして、子2人は、残りの預貯金3,000万円を2等分して、1,500万円ずつ相続できることになります。
これが、特別受益の持戻しです。
持戻しを行わない場合の例
次に、持戻しが免除される場合を見ていきましょう。
持戻しを行わない場合、相続分は預貯金の3,000万円のみになります。
そうすると、3,000万円の1/2である1,500万円が配偶者への相続分で、子2人は残りの1,500万円を2等分して750万円ずつとなるわけです。
この特別受益の持戻し免除の条件は、『被相続人の意思表示』が必要でしたが、法改正により条件付きで被相続人からの意思表示があったと推定されて免除が認められるようになりました。
条件は3つで全て満たす必要があります。
- 夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対して遺贈または贈与
- 上記①の夫婦の婚姻期間が20年以上にわたる
- 遺贈または贈与の対象物が、居住の用に供する建物またはその敷地
これによって、配偶者の権利が守られることになります。
遺産分割前における預貯金の仮払い制度の創設
これは以前から言われていた問題なのですが、ようやく改正されましたね。
たとえば、被相続人が亡くなれば預貯金が相続財産となるわけです。
共同相続人がいる場合、遺産分割が終わるまでは共同相続人全員が準共有状態となります。
そのため、被相続人の預貯金が単独では引き落とせない状態となってしまいます。これでは、葬式や当面の生活に困りますよね。
このめんどくさい規則が変わりました。
限度額までであれば、遺産分割前であっても引き落とせるようになりました。
限度額は、以下の通りです。
遺産分割前に遺産が処分された場合の新たな規律
今回の法改正前までは、預貯金の引落しが出来なかったこともあり、死亡届を出す前に銀行から引落しをする人が多かったんですね。
そのため、本来の相続額と遺産分割を行う時に相続額が異なることも多かったようです。
今までは、この裁判が別々に行う必要があったわけです。(遺産分割と遺産分割前の遺産処分について)
これが、遺産分割の裁判一括で行うことが可能になりました。
遺留分制度の変更(2019年7月施行)
遺言などで、「全財産を○○に相続する」という文言があったとしても、共同相続人には遺留分という民法で定められた相続分が存在します。
たとえば、遺産が持ち家しかない場合、遺留分を請求できることになります。
これを、遺留分減殺請求といいます。
これだと、持ち家の権利が分散してややこしいことになるのはわかりますよね。
これが、遺留分侵害額請求権というのに変わります。
簡単に説明すると、遺留分を金銭で請求できるということです。
このケースであれば、配偶者は持ち家に住み続けることも可能になるわけです。
相続の効力等に関する見直し(2019年7月施行)
共同相続時の対抗要件
いわゆる、共同相続分を相続人の一人が第三者に勝手に権利譲渡した場合についてです。
これは、第三者を保護するように法改正されました。
従来であれば、相続人が第三者に相続分を請求すれば権利を返却してもらうことが可能でした。
これが、登記がなければ第三者に対抗することができなくなりました。
相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使
遺言で相続分を指定している場合、その相続分に対する債務もその相続分で承継されるのでは?
という疑問がありました。
ただ、これは間違いで、判例で法定相続分の債務を承継するとされていました。
これが、法改正により明記されるようになりました。
相続人以外の者を保護する制度
たとえば、被相続人が亡くなる前に、被相続人の子が亡くなっている場合の話です。
その先に亡くなった子の配偶者が、被相続人の介護をしていたとします。
法改正前までは、この配偶者は特別寄与料を請求できませんでした。
しかし、これはかわいそうですよね。
そこで法改正により、特別寄与料を請求可能になりました。
この問題は、2世帯住宅などではよくあった事柄です。